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最高裁判所第二小法廷 平成4年(し)110号 決定 1992年12月14日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四三三条の抗告理由に当たらない。

なお、職権をもって判断すると、記録によれば、申立人は、有印公文書偽造等被告事件の被告人として国選弁護人を付されて審理を受け、判決を宣告された翌日に、当該裁判所に対し、上訴申立てのため必要であるとして、同事件の公判調書の閲覧を請求したが、これを許されなかったことが認められるところ、弁護人選任の効力は判決宣告によって失われるものではないから、右のような場合には、刑訴法四九条にいう「弁護人がないとき」には当たらないと解すべきである。したがって、申立人の公判調書閲覧を許さなかった処置に違法はないとした原判断は、正当である。

よって、刑訴法四三四条、四二六条一頁により、裁判官藤島昭の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

裁判官藤島昭の補足意見は、次のとおりである。

私も、原審の判決宣告前に選任された弁護人の選任の効力は、判決宣告によって失われず依然として持続すると考えるので、本件抗告を棄却すべきものとする法廷意見に賛成であるが、その結論に至る考え方について、私の意見を補足して述べることとする。

弁護人選任の効力の終期については、審級代理の原則(刑訴法三二条二頁)により、その審級の終了と一致するのが原則であるから、まずいつ原審級が終了するかを考える。原審の判決宣告まで訴訟が原審に係属することは明らかである。しかし、判決宣告後については、必ずしも明らかとはいえない。原審における判決宣告から訴訟が上訴審に係属するまでの期間は、二つの審級のいずれにも属さない中間地帯というべきものであるが、実質的に考えると、上訴申立てまでの期間は上訴のための準備期間であるから、将来訴訟が係属する上訴審と一体不可分の関係にあるものととらえることができるので、この間に存続している訴訟は上訴審の審級と同視し得る審級にあるものと観念することができる。したがって、訴訟が判決宣告後もなお原審にとどまって係属すると考えるのは相当ではなく、むしろ、判決宣告によって訴訟は原審を離脱すると考えられる。このように考えることは、最高裁昭和六二年(し)第一〇七号同六三年二月一七日大法廷決定・刑集四二巻二号二九九頁の趣旨とも整合するものといえよう。すなわち、右大法廷決定は、原審における判決宣告後、被告人の母によって選任された弁護人に上訴申立ての権限があると認めたものであり、判文上論理の過程までは明らかに示されていないものの、原審の訴訟行為に属さない上訴申立てについて、弁護人の包括的代理権に基づく上訴権行使を是認していることからすると、判決宣告後上訴申立てまでの期間は上訴審の審級と同視できる審級であると考え、したがってこの間において選任された弁護人は、選任者のいかんを問わず審級代理の原則により上訴審の審級と同視できる審級の弁護人として、その包括的代理権に基づき被告人のために上訴の申立てをすることができるとの考え方を採用したもので、訴訟が判決宣告後も上訴申立てまで原審に係属することを前提として、判決宣告後に選任された弁護人も刑訴法三五五条の「原審における弁護人」に該当すると考えたものではないと理解できるからである。

以上のとおり、原審級は判決宣告によって終了すると考えられるので、原審で選任された弁護人の選任の効力が判決宣告後も持続することはないようにみえる。しかし、判決宣告前に選任された弁護人は刑訴法三五五条により上訴申立ての権限を有する。そうすると、その権限行使を検討する上で必要な一切の訴訟行為を行うことができるはずであるから、その限度で弁護人選任の効力が判決宣告後も持続すると考えるのが相当である。刑訴法三五五条が原審における弁護人に対して、本来原審の訴訟行為に属さない上訴申立権を特に認めている以上、右弁護人が被告人の正当な利益の擁護者としての立場から、被告人との接見、保釈請求、公判調書を含む訴訟に関する書類の閲覧等、右の権限行使を検討する上で必要な一切の訴訟行為をなし得ることは、理の当然だからである。そして、このように考えられる以上、本件については、弁護人選任の効力は原審の判決宣告後も依然として持続しており、刑訴法四九条にいう「被告人に弁護人がないとき」には当たらない。したがって、申立人からの公判調書閲覧の請求を許さなかった処置は適法である。

(裁判長裁判官藤島昭 裁判官中島敏次郎 裁判官木崎良平 裁判官大西勝也)

別紙異議申立書<省略>

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